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伝統菓子・地方菓子- Traditional confectionery -

シェフの思い出の菓子

フレデリック・マドレーヌ(ル・ポミエ)2015年07月30日

リ・オ・レRiz au lait

このリ・オ・レ、お菓子屋さんぽいって?もっと家庭的な感じの方がよかったかな。でも、味は子どもの頃の想い出のままだから、だいじょうぶ。

といっても普段のおやつじゃなくて、ぼくにとってはヴァカンスの時季限定のお菓子。学校が長い休みになると、ロワール地方にある祖父母の家で過ごしていた。トルフーという、地図にものっていないような小さな小さな村だよ。彼らは当時一人っ子だったぼくを、とてもかわいがってくれてね。祖父は工場勤め、暮らしは決して裕福ではなかったと思うけれど、そんな中でも祖母は身近な材料でおいしいものを作ってぼくを喜ばせてくれた。このリ・オ・レも彼女の得意で、大きなキャセロールで作るのを横で見ていたよ。牛乳だけでシンプルに煮るほかに、別に作ったキャラメル・ソースを混ぜたり、コンフィチュールやショコラを合わせたり。煮たお米は甘すぎず、それにしっかりとした甘さのキャラメルを合
わせるバランス、彼女はなかなかのパティ
シエールでしたよ。これを見たら「私のを真似したのね」って言うかもね(笑)。
リ・オ・レはこういうふうに煮ただけのものと、ビストロなんかのデザートでは器に盛ったあとでオーブンに入れて表面を軽く焼くというやり方もあるよ。冷たくても温かくてもおいしいお菓子っていうことだね。

ぼくの生まれ育ったノルマンディは、乳製品がおいしいので有名な土地だけれど、そんな材料を使ったお菓子はぼくの原点。祖母のことばかり話したけれど、母にもたくさんのレシピがあったよ。ヨーグルトは自家製だったし、「トゥールグール」という、ノルマンディ地方に伝わる、これもお米を牛乳で4~5時間も煮込むものだけれど、冬になるとそれも作っていた。おいしかったのは彼女たちの腕だけでなく、素材がすばらしかったということもあるでしょうね。
すべての乳製品の原料となる牛乳、それをブリキのミルク缶を提げて朝夕近所の農場に買いに行くのが、ぼくら子どもの仕事だったんだから、産直なんてもんじゃないよ。当時は単なる日課と思っていたけれど、今となれば贅沢なことだね。
その頃に比べれば、フランスの牛乳も質がずいぶんと下がってしまった。ここ数年また見直されて徐々に良くなってきているようだけれど、やはり素材はすべての命、本来の味を取り戻してほしい。当たり前のことだけれど、それを忘れずに仕事をしていくのも、パティシエとしての責任だと思うんだ。