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伝統菓子・地方菓子- Traditional confectionery -

シェフの思い出の菓子

丸山 正勝(ル ガリュウM)2015年07月30日

ガトー・バスク Gâteau Basque

ガトー・バスクは生地:中身=2:1というのがスタンダードだと思いますが、僕のガトー・バスクは生地のざっくりした質感を際立たせるようかなり薄め、1:1くらいでしょうか。全粒粉を使っているのも、あまりキメ細かくエレガントになりすぎないように、できるだけ素朴さを出したいと考えたのです。
パリでの修行時代、わずかな休暇に先輩がバスク地方に連れていってくれたことがあったんです。今でこそバスクは日本の雑誌でも特集を組むほど有名になりましたが、当時(90年頃)はまだ何一つ情報のない頃。でも気候も人の気質もよく、料理もおいしくてたちまちバスクという土地が気に入りました。プレ・バスケーズ(鶏肉のバスク風)という煮
込みなんかは、パリに帰ってから何度も作っ
たほど。そして旅行中、通称ルル、という生粋
のバスク人と知り合いました。

彼自身は料理人でもパティシエでもないんですが、とても温かく面倒見のよい人で、その先輩をはじめとして多くの職人たちが彼を慕って集まっていました。僕も翌年に、今度は一人でヒッチハイクをしながらルルの家へ。独立志向が高く、それだけに郷土愛の強いバスク人ですが、ルルもその例にもれず、張り切って僕をあちこちと案内してくれました。
ある日彼に連れられた郊外の古い水車小屋。そこでは巨大な石臼で、小麦が挽かれていたんです。パティシエとして修行をしていた僕に見せたかったんでしょうね。中にはレンガの壁に埋め込まれた昔ながらの手動の窯もあって、自家挽きの粉でお菓子も作っていました。そこで出会ったのがガトー・バスクです。外はカリッと、中はふんわり、見た目からは想像できない食感にまず驚きました。そして素朴だけれど、香ばしく立ち上る粉の風味。当時はアレンジ版などなく、伝統に則ってクレーム・パティシエール入りと、黒いサクランボのジャム入りの二種でしたが、パリで日々取り組んでいたモダンなお菓子に比べて、その力強さに目から鱗の落ちる思いがしました。今、自分の作るガトー・バスクは、このとき五感に刻まれたイメージの再現であるような気がします。

あれから20年近く、いろいろなお菓子を作ってきましたが、あの日ガトー・バスクから伝わってきたフランスの地方の持つ豊かさや多彩さは色あせず、パティシエとしていつまでも大切にしたいもののひとつとなっています。