伝統菓子・地方菓子- Traditional confectionery -

伝統菓子・地方菓子

●パン・デピス2015年07月30日

パン・デピス Pain d’épice
ライ麦粉とハチミツを使い、複数のスパイスを効かせて焼き上げたお菓子。香りとともに、ざっくりと固めで素朴な食感も特徴である。歴史は非常に古く、またワールド・ワイドで、10世紀の中国で、滋養的な食べ物として存在した「ミコン」というものが原形だとされている。砂糖の普及前に主力の甘味料だったハチミツは、すでにこのときより入っており、それが中東へ、そして十字軍の遠征によってフランドル地方(現在のオランダ、ベルギー)、ドイツなどへともたらされる間に、スパイスも加えられるようになった。フランスには、当時のフランドル王女・マルグリットがブルゴーニュ公国に輿入れした際に、伝わったとされる。この名残として、ブルゴーニュ地方ディジョンにはパン・デピスの老舗専門店があるが、当時は主に修道院でつくられたものであったという。自給自足の生活の中、ハチミツの使い道のひとつとして、彼らはハチミツ入りのパンをつくり、巡礼者に売って生計を立てていた。フランス各地のマルシェには、現在でも必ず量り売りのパン・デピスが並んでおり、このお菓子と人々との長い関わりを感じさせる。

○用語・人名解説
エピス épice
スパイスの意。食料の保存方法のひとつとして用いられたスパイスは、交易の貴重な商品であった。主な産地であるアジア・中東地域からヨーロッパへと持ち込まれる際に、東欧諸国やドイツ、フランス・アルザス地方を経由した経緯により、これらの地域には料理やお菓子にスパイスを多く使う風習が残った。因みにアルザス地方に残るパン・デピスは、ブルゴーニュのものと異なり、スパイスの効いた固焼きクッキーである。

エーグルドゥース 寺井則彦
素朴なパン・デピスも、スマートなフォルムとオレンジの風味で、洗練された印象に。伝統と現代のミックスは、東西が交錯したこのお菓子の歴史を映すかのようだ。